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西部大開発と少数民族地域

大阪市立大学大学院経済学研究科教授  佐々木 信彰

四、「西部大開発」と民族地域自治法の改正

 

 西部大開発が実際に動き出したのは二〇〇〇年からであるが、 この西部大開発の実施と軌を一にして民族区域自治法が二〇〇一年三月の全人代で改正された。一九八四年に制定された民族区域自治法が改正されるに至った背景につき考えてみることにする(3)

 中国の民族自治政策は、統一国家の維持という至上命題を前提にして、少数民族あるいは民族自治地方の国家からの分離独立を否定してきた。 チベット、新疆ウイグルさらに内蒙古などの各民族自治区で起こった「独立」騒動は、軍隊警察を動員して武力鎮圧してきた。また江沢民など中国共産党指導者は中央アジア各国、モンゴル、インドなど近隣国家への積極的な友好外交を展開して、中国国内の少数民族の「後方支援基地」を遮断し、分離独立の芽を摘んできた。

 このように政治面で少数民族の遠心分離傾向を抑圧し、統一国家へ少数民族を求心しようとする中国の方針が成功するためにはいくつかの条件が必要であり、その中でも重要なものは、国内の漢族先進地域と少数民族後進地域の間に存在する国内の南北問題の克服である。

 「改革開放」以来の中国の経済発展と所得水準の向上が、少数民族と民族自治地方にも均霑されなければ、少数民族を統一国家に吸引包含する理屈づけは難しい。国境を接して両側に居住する二十余りの「跨界民族」(架橋民族)の場合、また跨界民族ならずとも情報化が進展するなか、中国の東部沿海地域と他のアジア諸国の経済状況と水準を知るようになった少数民族は、南北問題を従来より強く自覚するようになったのである。

 「民族区域自治法」実施以来すでに十七年が経過した。「民族区域自治法」が制定された一九八四年は、すでに 「改革開放」 政策が始まっており、農村で人民公社が解体されて農家生産責任制が始まり、また郷鎮企業が増えるなど新しい時代の変化は兆していたが、まだ国営企業に改革のメスは入っておらず、商品経済が少しずつ進んでいたが、まだ計画経済の時代であった。中国が公然と市場経済を採用すると宣言したのは、一九九二年、鄧小平の南巡講話においてである。

 このように、「民族区域自治法」の制定された時期とその後の中国の社会経済変動の大きさを考えると、同法に対する見直し論議が起こってきたのは当然のことと言える。

 一九九一年十二月に国務院が「民族区域自治法をより一層貫徹実施するうえでの若干の問題に関する通知」を発布したのは、このような事態が背景として考えられる。この通知では、

 (1)、民族自治地方に対する投入を適宜増加する。大中型建設項目は同等の条件下では、民族地域への配置を優先すること。

 (2)、中央財政予算に算入されている「経済未発達地区発展支援資金」を第八次五カ年計画期間(一九九一-九五年)中、年間八億元から十一億元に増額すること。

 (3)、民族貧困地区大衆の衣食充足問題をすみやかに解決すること。

などが記されている。見られるように、民族自治地方の経済発展と貧困解消のため、国が民族自治地方に対する一定の優遇政策と傾斜政策を採用してきたことがわかる。

 このように、国の民族政策の根幹をなす民族区域自治法の改正論議が内外で起こっているとき、全国人民代表大会では李鵬委員長の指示のもとに、民族区域自治法を修改正するための調査検討工作が一九九八年より本格的に開始され、九九年にはトムルダワマト全人代常務委員会副委員長を組長とする民族区域自治法修改正小組が正式に成立した。この小組が鋭意検討を重ね、また関係の行政部門、党機関と協議を繰り返して同年六月二日には修改正小組の討論用の原稿である「民族区域自治法修訂草案」 ができた。

 

ここで、民族区域自治法の条文とその「修訂草案」の修改正点を紹介し、検討を加えることにする。

 (1)、計画経済時代には必要であったが、市場経済にそぐわないため削除されたのは、国家計画の買い付け、供出任務にかかわる第三一条と第五九条の二カ条である。

 (2)、修改正点のうち、関係部局、機関の同意が得られたものは次のとおりである。

第二二条(原文の趣旨)当該地方の民族の中からの各級幹部、専門家および技術労働者の養成。(追加)民族自治地方の自治機関は公務員を採用する場合、区域自治を実施している民族とその他の少数民族の人員から優先的に採用しなければならない。「中央組織部同意」

第三二条(原文)民族自治地方の自治機関は、対外経済貿易活動において、外貨留保などの面で国から優遇を受ける。

 (修正)国家は民族自治地方の対外経済貿易の発展を援助する。民族自治地方は対外貿易活動の中で、輸出戻し税、輸出入割当額、許可証管理、輸出商品基地建設融資および当該地方のインフラ建設に用いられる重要物資と、重要生産手段の輸入のさいの減免税などの面で国家の優遇を受ける。「対外経済貿易合作部同意。ただし民族自治地方の国境貿易に相対的に大きな権限を与える際の具体的政策はまだ検討中」

第三七条 (民族教育)

 (追加)各級人民政府は少数民族文字の教材と出版物の翻訳と出版活動を財政面で援助しなければならない。「教育部、科学技術部同意」

第三八条 (民族文化事業)

 (追加)文化事業への投資を拡大し、文化施設の建設を強化し、各項の文化事業の発展を速める。「教育部科学技術部同意」

第五五条(追加)国は民族自治地方への国内外資金の投入を誘導奨励し、民族自治地方の特徴と必要に基づいて、国際金融機関融資と外国政府融資を優先的に配分する。

 (追加)国の統一的な計画指導のもとに、市場ニーズをガイドラインとして、民族自治地方で資源開発プロジェクトとインフラ建設プロジェクトの合理的な配分を優先する。国は投資プロジェクト資本金のうち、投資比率と政策的銀行融資比率を適当に増やさねばならない。国は資源加工型企業と労働集約型企業を段階的に民族自治地方へ移転するよう誘導する。「国家発展計画委員会同意」

第五七条(修正と追加)上級国家機関は、国の民族貿易政策および民族自治地方の必要に基づき、民族自治地方の商業企業、供給販売企業、医薬企業および少数民族の特需商品を生産する企業に投資、金融、税収などの面で援助を与える。「国家経済貿易委員会、人民銀行同意」

第五八条(修正)国と上級人民政府は、民族自治地方に対する財政移転支出の重要度を毎年増やすべきである。「国家発展計画委員会同意」

第六一条(修正)上級国家機関は経済発達地区と民族自治地方の多レベル、多方面の「対口支援」を組織し、指示し、さらに奨励して、民族自治地方の経済、教育、科学技術、文化、衛生、体育事業の発展を援助し、促進しなければならない。「国家発展計画委員会同意」

第六七条(新)民族自治地方の上級人民政府およびその所属部門では、一定数の少数民族指導幹部と工作要員を配置すべきである。「中央組織部同意」

(3)、意見の一致に至らなかった主要な問題点は次のとおりである。

 民族自治地方の人民代表大会の主任は区域自治を施する民族の公民が担当し、 副主任の中には、 区域自治を実施する民族の公民が入っていなければならない。「中央組織部同意せず」

 民族自治地方の自治機関の少数民族幹部は少数民族の人口比と対応しなければならない。「中央組織部同意せず。(理由)各少数民族の人口素質には格差があり、幹部の成長にも影響している。このため幹部比率を規定することは幹部選抜の徳才兼備基準に合致しない」

 民族区域自治法の中に自治市、民族鎮の規定を加えること。「民政部同意せず、憲法の中に規定がないためで、憲法で決めれば改正することになろう」

 第六二条(追加)国が民族自治地方で重大なインフラ建設を行う場合には、国が投資を行う。国が民族自治地方で、その他のインフラ建設を行うさいに民族自治地方の応分資金が必要な場合、その応分資金比率は一般地区より低くすべきである。「国家発展計画委員会同意せず」

 第六二条(追加)国が民族自治地方で資源開発のために経営する企業は、当該地方に納税すべきである。「国家税務総局同意せず。(理由)これは財政部が統一的に考慮すべき問題であり、このような規定をおくことは今後の財政、税制改革にとり不利である」

 (4)、以上のような修正追加の条文のうち、関係部門機関との協議を経て同意された条文と同意にいたらなかった条文以外に、この修訂草案に盛り込まれた重要な個所は次のとおりである。

第二八条(追加)草原と森林で耕地を開墾して耕作することを厳禁する。

第六二条(追加)上級国家機関は重大な生態バランス、境保護総合管理プロジェクトを国家計画に組み入れ、統一的に配置すべきである。いかなる組織と個人も民族自治地方で資源を開発し、建設を行うときには、効果的な措置をとっ、当該地方の生活環境と生態環境を保護、改善し汚染およびその他公害を防止しなければならない。

 このように党の中央組織部と国務院の関係各部門およそ二十の単位と修改正小組は協議を続けて、修訂草案の修正個所、追加個所のうち前述のように同意条文と不同意条文が振り分けられた。もちろんまだ協議していない条文と関係部門機関から回答のない条文が残っており、修改正作業を終えて新しい「民族区域自治法」が発表されたのは、ようやく二〇〇一年二月二十八日の、第九期全人代常務委員会第二十回会議であり、同日より施行された。

 このように、民族区域自治法が時代の要請に応じて改正された点は高く評価すべきであるが、他方で、この自治法に盛られた各条文の実施水準を高めることが重要である。一例を挙げると、自治法は民族自治地方の自治条例制定権を認めているが、五民族自治区では依然として自治条例が制定されていない現実が存在する。

 

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